革に使われる原料

家畜の動物が革と革製品の原料になる

⾰・⾰製品となる原⽪げんぴ(または原料⽪)は主に⽜、⽺、⼭⽺やぎ、豚です。そのほかに野⽣動物やエキゾチックレザーがあります。 世界の種別⽐率は⽜69%、⽺13%、⼭⽺11%、豚6%となっており、これらで約99%を占めています。豚の⽐率が少ないのは、外国では⽪を剥がずに処理され、⽪ごと⾷べられることが多いからです(「⾰を取るために動物は飼われていない」参照)。 野⽣動物は、⽇本ではシカ、イノシシ、クマなどです。エキゾチックレザーにはワニ、トカゲ、ヘビ、オーストリッチ(駝⿃だちょう)などで、これらはワシントン条約に基づき、密漁や乱獲などで数が減らないように厳重に管理されています。現在、取引されているものは養殖がほとんどです。現地の⼈たちの貴重な収⼊源になることで、保護が進みました。また、⽪に使われるだけでなく、⾁も⾷べられています。

世界の家畜ベスト3とその産出国は

▲ グラフ①:世界の家畜

FAO(国連⾷糧農業機関)の2022年データによると、世界⼈⼝79.5億⼈に対し、飼養されている家畜動物は53.7億頭います。内訳は⽜15.5億頭、⽺13.2億頭、⼭⽺11.5億頭、豚9.8億頭の順(グラフ①)。豚は豚熱(CSF)の影響を受けて例年より少なくなっています。

▲ グラフ②:⽜の飼養頭数

⽜の飼養頭数が⼀番多い国はどこか? 多くの⽇本⼈は「アメリカ」と答えるのでは。しかしトップはブラジルで2.3億頭となっています。次いでインド1.9億頭、アメリカ9千万頭となっています(グラフ②)。 ⽺は中国1.9億頭、インド8千万頭、オーストラリア7千万頭の順でアジア・アフリカに多く、全体の77.5%になります。 ⼭⽺はインド1.5億頭、中国1.3億頭、ナイジェリア9千万頭、アジア・アフリで94.9%を閉めています。 豚は中国が4.5 億頭で46.2%にもなります。次いでアメリカ7千万頭、ブラジル4千万頭の順となります。  
 

家畜動物の飼養頭数(百万頭)

FAO 2023
ウシ ヒツジ
飼養頭数 飼養頭数
ブラジル 238.63 中国 192.98
インド 194.48 インド 77.42
USA 88.84 オーストラリア 72.10
中国 73.56 イラン 52.01
エチオピア 70.90 ナイジェリア 51.42
パキスタン 55.45 チャド 48.65
アルゼンチン 54.24 トルコ 42.06
タンザニア 37.91 スーダン 39.99
チャド 37.65 エチオピア 39.95
メキシコ 36.62 パキスタン 32.35
その他 687.49 その他 674.89
日本 4.04
ヤギ ブタ
飼養頭数 飼養頭数
インド 154.26 中国 434.22
中国 129.34 USA 75.82
ナイジェリア 89.29 ブラジル 43.00
パキスタン 84.74 スペイン 33.80
エチオピア 53.57 ロシア 27.61
チャド 49.31 ベトナム 25.55
ケニア 34.99 ドイツ 21.22
マリ 32.19 メキシコ 19.53
スーダン 31.42 カナダ 13.91
タンザニア 27.59 フランス 11.79
その他 440.52 その他 258.08
日本 8.96
スイギュウ ウマ
飼養頭数 飼養頭数
インド 112.05 メキシコ 6.41
パキスタン 44.97 USA 6.35
中国 31.53 ブラジル 5.80
ネパール 3.08 モンゴル 4.83
フィリピン 2.78 カザフスタン 3.85
ベトナム 2.14 中国 3.59
ミャンマー 2.08 アルゼンチン 2.51
ブラジル 1.67 エチオピア 2.29
バングラデシュ 1.52 チャド 1.50
エジプト 1.45 コロンビア 1.48
その他 6.18 その他 18.44
 

革に使われる原料

皮が革として利用されている動物は、脊椎動物に限られています。その中でもほ乳類、は虫類に属する動物がよく利用されており、鳥類、両生類、魚類などはは少い。
これらの大半を占めるのが、家畜化され肉用として飼育されている動物です。野生動物の中には「絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」により制限を受けているものがあり、商取引では注意が必要です。


皮革は皮の繊維構造を利用している素材であり、皮の性質や特徴を理解するには生皮の構造に関しての知識が重要です。
下図はウシの繊維構造です。一般的にほ乳動物の皮は、表皮と真皮でできていますが、表皮層は製造段階で除去され、革として利用されるのは真皮層です。 真皮層は乳頭層と網状層に区別され、その表面に近い部分は乳頭層と呼ばれ、比較的細いコラーゲン繊維が網状に交絡しています。
石灰漬けで表皮が除去された後の乳頭層の表面を銀面(ぎんめん)と呼んでいます。網状層は比較的太いコラーゲン繊維束が密に三次元的に絡みあっています。下層になるほどコラーゲン繊維束の走行方向は平行になる傾向があります。
このような繊維の構造は、革の機械的性質や外観に影響を及ぼしています。生皮の状態では、ある程度の厚みがあり、用途に合わせて薄く漉(す)かれます。厚さの調整によって、革の物性は左右されます。すなわち引張強さ、引裂強さ、伸びなどは、一定の厚さ以下になると極端に弱くなるなります。
また、銀面の状態によって商品価値が大きく左右されます。
皮は、動物の種類、品種、年齢、性別、用途(肉用、乳用、使役用)、飼育方法、栄養状態、及びと畜時期で組織構造に大きな差が出ます。さらに、部位によっても差がある。革として使いやすいのは、一定の年齢でと畜される肉用種のものです。

 

牛皮

ウシの皮は最も多く利用されています。乳頭層の凹凸が小さく、比較的均質なコラーゲン線維構造を持ち、機械的強度も大きい。また、真皮の乳頭層と網状層の区別がつきやすい。

線維束は、ネック部が太くて枝分かれの少ないもので、ある間隔をもって緩やかにからみあっています。ショルダー部では、太さのそろった線維束同士でよくからみあっており、その間に細かい線維束が混じり密度が高くなっています。ベリー部(お腹)は、枝別れの少ない線維束が銀面に平行に走っており、交絡の程度が低くて空隙が多い。

牛皮は、重量のほかに性別等によってステア(去勢雄牛)、ブル(雄牛)、カウ(雌牛)、キップ(中牛)、カーフ(子牛)と区分され、さらにヘビーステア、ライトステアと細分される場合もあります。

ただし、この分類は国によって異なるので注意が必要です。欧州では「キップ」という分類はなく、およそ15kgまでをカーフと呼ぶ場合が多いのです。

我が国で生産される牛皮は、内地(ないち)は地生(じなま)とも呼ばれます。さらに、ホルスタイン種の乳牛皮はホルス、黒毛和牛の皮は一毛(ひとげ)とも呼ばれます。

我が国で最も多く使用されている牛皮はヘビーステアです。また、ホルス、デイリーステア、一毛、ライトステアが使用されています。

成牛革の表面(デジタル顕微鏡)

成牛革の断面(SEM像)

カーフの表面(デジタル顕微鏡)

カーフの断面(SEM像)

革の断面と名称(例)



豚皮

世界的には豚皮の流通は少なくデータはありません。米国、欧州ともに湯剥ぎが多く、皮を食べる文化があり、宗教的に豚を食べない国もあります。

豚皮の最大の特徴は、毛(剛毛)が3本ずつまとまって銀面から肉面を貫通していることです。毛根の末端が皮下組織に達しているために、網様層がなく、乳頭層だけでなっているといえるでしょう。バット部は線維束が太く、走行角度も大きく充実して密度が高い。ほかの部位に比べて組織が密なため硬くなる傾向にあり、均一な柔軟性が得にくい。

しかし、組織を構成するコラーゲン線維は牛皮より細く、緻密であるため、バフィング起毛により繊細な起毛革が得られます。銀面は凹凸が多く、大きな凸凹面に更に小さな凹凸がある松かさの鱗片のようで、これが豚革特有の銀面模様となっています。

豚革の表面(デジタル顕微鏡)

豚革の断面(SEM像)



羊皮

哺乳網ウシ目ウシ亜目ウシ科ヤギ亜科ヒツジ属。羊皮は品種が多く、皮の性状も多種多様であり、毛用種、肉用種、乳用種等に大別され組織構造は若干異なります。大別して、ヘアーシープとウールシープに分かれます。子羊皮はラムスキンと呼びます。

ヘアーシープは、エチオピア、ナイジェリア、イエメン、インド、インドネシアなどの熱帯地域に多い。暑いところに生息しているので、毛の品質は良くないのですが、皮は良質です。毛用種として改良されずほぼ原種のまま肉用種または乳用種として存続しています。その構造は山羊皮の構造に類似しており、強度が優れています。軽くて柔軟性に優れており、ゴルフ手袋や防寒材料として利用されています。

ウールシープは文字通り、毛(ウール)を取るために品種改良されたもので、寒冷地域に多い。被毛の数が多く、乳頭層中の毛包や脂腺の数が多いため空隙が多く、コラーゲン繊維束のからみ少ない。網状層は比較的薄く、繊維束は銀面に対して平行なものが多い。乳頭層と網状層のつながりが疎(そ)で、この部分に脂肪が多く沈着し、乳頭層と網状層に二分しやすくなっています。軽くて柔軟ですが、強度は落ちます。

衣料、手袋、袋物、靴の甲革や裏革などに用いられます。

ヘアーシープの表面(デジタル顕微鏡)

ヘアーシープの断面(SEM像)

ウールシープの表面(デジタル顕微鏡)

ウールシープの断面(SEM像)



山羊皮(やぎ)

哺乳網ウシ目ウシ亜目ウシ科ヤギ亜科ヤギ属。アジアやアフリカで汎用家畜として飼育されており、非常に種類が多い。用途別に乳用種、毛用種、兼用種に分けられる。羊に近い種類もあり、製品の状態では判別しにくいものもあります。

構造は基本的に小牛皮と同じですが、乳頭層の弾性繊維の発達が良い点と、網状層の繊維束の密度と交絡の程度が牛皮に比較して少ない点が異なります。薄くて柔らかい皮であるが丈夫です。

銀面は特有な凹凸をもち、毛穴の形に特徴があり耐摩耗性に優れている。大きさ(年齢)によりゴートとキッドに分類される。独特の銀面模様がもてはやされています。

靴の甲革、衣料、ハンドバッグなどに用いられます。

ヤギ革の表面(デジタル顕微鏡)

ヤギ革の断面(SEM像)



馬皮

繊維構造は牛皮に比較して粗い。判が大きく、柔らかさが特徴です。馬の尻の部分をタンニン鞣したコードバンは光沢と強さで定評があり、ランドセル、ベルト、時計バンドなどに利用される。馬革は、この部位以外は靴裏革が主用途ででしたが、現在ではバッグ用など用途が広がっています。

馬革の表面(デジタル顕微鏡)

馬革の断面(SEM像)



全ての革が同じではない

・年齢

ほとんどの国では、去勢牛、未経産牛、雌牛は24ヶ月ほどで成熟する。乳牛や雄牛はそれよりかなり高齢になることもある。高齢の動物は、寄生虫、引っ掻き傷、糞尿による損傷、成長の跡、しわなどの影響で、皮の品質が低下することがある

・品種

大きさ、厚さ、繊維構造、形状、毛の種類が決まる。商業ベースにおいて高品質な皮は、通常、去勢牛と未経産牛から得られる

・性別

雄牛はより大きく、欧州の特定の雄牛は、自動車や家具に理想的である。雌牛は皮が薄く、幅があり、しばしば腹部に充実性がなく、穴があることもある

・飼育

飼育場で飼育された動物は、損傷は少ないが、冬の間には糞尿が皮に付着し、銀面損傷につながる可能性がある

放牧では、寄生虫による損傷や引っ掻き傷による損傷を受けやすい

・気象条件

特定の場所に適した品種を決定する。 厳しい冬に耐える品種もあれば、熱帯や高温の気候に耐える品種もある。地理的条件や気候条件によって、食肉生産に適した場所に最適な品種が決定される。ただし、それは生産される皮の品質ではなく、あくまでも食肉生産に適しているかどうかである