鞣しの方法の違い

鞣しの種類

⽪の鞣しと鞣剤は次のようなものです。

  • 燻煙くんえん鞣し(葉や⽊のチップなど)
  • ‐ 動物油脂鞣し(脳漿のうしょう、卵⻩、⿂油、ミルクなど)
  • ‐ 植物油脂鞣し(ごま油、菜種油、オリーブ油など)
  • ‐ ミョウバン鞣し(ミョウバン)
  • ‐ 植物タンニン鞣し(チェストナット、ミモザ、ケブラチョ、オークなど)
  • ‐ クロム鞣し

これらを中⼼に、⽤途に合った性質を⾰に持たせるために、単独もしくは複合的に鞣しが⾏われてきました。

クロム鞣し

量産が魅⼒、世界の80%を占める

現在、クロム鞣しは最も⼀般的な鞣しで、世界の⾰の約80%はクロム鞣しで⾏われていると推定されます。

1858年
ドイツのKnapp 教授が⾦属元素のクロムに鞣し効果があることを発⾒。
1884年
アメリカのSchultz⽒が重クロム酸塩と塩酸による⼆浴法鞣しを発表。
1893年
アメリカのDennis⽒が予め還元して調整した塩基性硫酸クロム塩溶液を利⽤する⼀浴法を開発。

こうして、クロム鞣しは短期間に多くの⽪の鞣しができる⾰新的な⽅法として世界的に広まり、植物タンニン鞣しを駆逐し、今⽇、鞣しの主流となっています。現在、世界の⽪⾰産業で使⽤されている最も⼀般的なクロム鞣剤じゅうざいは、Cr(III) の塩である塩基性硫酸クロムです。クロム含有量、塩基度、中性塩の種類・含有量を調整した市販の粉末クロム鞣剤が利⽤されています。

耐熱性、柔軟性、染⾊性に優れる

有害な6価クロムと混同されがちですが、⽪⾰産業で使われているのは無害な3価クロムです。REACHなどでは⾰製品中の6価クロムが規制されていますが、現在では6価クロム⽣成の懸念がないような⽅法で鞣しが⾏われています。クロム鞣しされた⾰の利点は⾼い耐熱性と柔軟性が得られ、染⾊性が良く多様な⾊の染⾊が可能です。また、植物タンニンや合成タンニンとの併⽤、加脂量を調整することで多⽤途の⾰が製造可能です。

植物タンニン鞣し

樹⽪・⽊材・葉を使う古くからの⽅法

樹⽪、⽊材、葉などを使って古代から使われてきました。19世紀にクロム鞣しが発⾒され、鞣しの主流になるまで⻑い年⽉にわたって使われてきました。
もともとは、森の中で倒⽊のそばや、枝・葉・実などがたまった⽔たまりで死んでいた動物の⽪が腐敗しないで残っていたことなどを発⾒したことから始まり、染⾊のために⽊の⽪や実を⽤いると、耐久性が⽣じることなどから発達したと考えられます。
初期の植物タンニン鞣しは、樹⽪、幹、葉、実などを粉砕して⽪とともに、桶などの中に⽔に浸して鞣しを⾏っていました。その後、温⽔または有機溶剤で植物タンニンを抽出し、粉末状または液体状のエキスとして使⽤するようになりました。輸送のコストから、在ではほとんどが粉末状のものが使われています。
植物タンニンは、植物から抽出した収れん性のある物質で、現在ではポリフェノールとしてよく知られています。実際の植物タンニンには、それ以外にもタンニンの前駆体、分解⽣成物、有機酸、有機酸塩などの様々な物質が含まれています。主なものは、チェスナット、ミロバラン、スマック、オーク、ケブラチョ、ミモザなどがあります。⽪との反応は、⽪のコラーゲンに対する収れん性と繊維間への充填効果が強く、これらが鞣し効果の主要な部分を占めています。

⾃然志向の盛り上がりで⼈気復活

伝統的な植物タンニン鞣しは、植物タンニンが⼊ったピットに⽪をつけ込む鞣し⽅法で、⽪をタンニン濃度の低いピットから徐々に濃度の⾼いピットに移していく⽅法で、数週間から⻑いものでは1年以上かかるものもありました。クロム鞣しと⽐較すると、鞣しに時間がかかり、多量の鞣剤を使うのが特徴です。
現在では、ドラムを使⽤して短時間で鞣しを完了する⽅法もあります。この⽅法では合成タンニンなどを使⽤して、⽪組織の脱⽔効果を上げることによって、本鞣しにおける植物タンニンの浸透を促進しています。
底⾰、ぬめ⾰、多脂⾰、クラフト⾰、⼯業⽤ベルトなどに使われています。植物タンニンで鞣した⾰は型崩れがしにくく、使⽤環境に伴って⾃然な変⾊が起こる⾰として⼈気があります。今⽇、⾃然志向のライフスタイルから、⾰の⾵合いを⽣かした鞣し⽅法として⼈気があります。

その他の金属鞣し

アルミニウムによる鞣しは、ミョウバン鞣しとして、古代から使⽤されてきました。コラーゲンとアルミニウムとの結合は弱く、単独では使⽤することはほとんどありません。前鞣しに利⽤することは可能です。また、植物タンニンと併⽤すると、耐熱性が⼤きく上昇します。
ジルコニウム鞣しは、⽩⾰の製造に⽤いることが出来ます。⾦属鞣しの中では、クロム⾰に近い性質を持ち、液中熱収縮温度は96℃〜98℃まで達します。

アルデヒド鞣し

ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、ジアルデヒド澱粉などが利⽤されています。ホルムアルデヒドで鞣した⾰は、純⽩で、膨らみがあり、野球ボールなどの⽩⾰の製造に適しています。最近では、労働安全衛⽣の⾯から、その使⽤は少なくなっています。グルタルアルデヒドおよびその誘導体は、耐⽔性、耐汗性を付与する⽬的で再鞣しに使⽤されています。また、⾮クロム⾰を製造する前鞣し剤としても多⽤しています。

油鞣し

油鞣しは、主にアルデヒドとの複合鞣しで⾏われています。代表的なものはセーム⾰で、⿅⽪にタラ肝油などの不飽和脂肪酸で鞣しています。耐熱性は低いけれども、耐⽔性に優れています。顕微鏡、めがねのレンズ、⾞体の清掃に重宝されています。

合成タンニン鞣し

植物タンニンの代わりとしてまたは補助剤として開発されました。単独の鞣しで使われることはほとんどありませんが、種々の⽤途に合わせて再鞣剤として使われることが多くなっています。