世界の200近い国々が協力して脱炭素化に取り組むことを約束したパリ協定。 このパリ協定の実施施策や追加ルールを議論する国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)が、アゼルバイジャンの首都バクーにて、2024年11月11日から24日まで開催されました。2024/11/25
国際的な皮革産業は、2024年のCOP29(コップ。国連気候変動枠組条約 第29回締約国会議)において、長持ちする革製品が消費と環境への負荷を減らす上で大きな役割を果たせるとする宣言書(レザーマニフェスト)を提出しました。
(内容の要約)
人が引き起こす気候変動の要因の一つは消費です。いまファストファッションに代表される大量生産・廃棄型消費が問題になっていますが、革は耐久性が高く、修理可能で循環経済に寄与する素材です。
いま、EU規制や様々な誤解によって、皮革産業は不当な評価を受けています。この宣言では、革の環境的利点を正しく評価し、循環型消費を促進する政策を求め、耐久性のある製品の使用や自然素材の活用の重要性を強調しています。
〇革が直面している課題
1.規制と誤解の影響
EUの「森林破壊規則」では、革が森林破壊の要因とみなされているが、科学的根拠がない
2.消費者意識の不足
革製品の寿命やメリットが正しく伝えられなければ、消費者は安価で寿命の短い合成繊維製品を選び、化石燃料の使用が増加する
〇 要望と提言
1.革の持続可能性の認識
革が森林破壊を助長しないことを認識し、製品寿命や消費への影響を正確に知る
2.正確な環境影響評価
すべての素材の環境影響を適切に計測し、ライフサイクル全体を考慮する
3.スローファッションの推進
修理可能で、長持ちする製品の利用を促進する
4.天然繊維の優先利用
革のような天然素材の使用を推奨し、化石燃料ベースの素材依存を削減する
(全文の翻訳)
革の宣言 COP29に寄せて
「より良いものを買い、買いすぎず、革製品を買おう」
消費は、人為的気候変動の主な原因の一つです。消費者は、より多くを欲し、より多くを購入し、最終的には多くの製品を廃棄するように仕向けられています。その多くは質が低く、寿命が短く、修理や再利用ではなく、廃棄して買い替えることを前提に設計されています。この最たる例がファストファッション業界です。この業界では年間約3億5000万バレルの石油を使用し、ポリエステル生産だけで2820億kgの温室効果ガスを排出しています。年間1000億着の衣類が生産され、そのうち450億着が一度も着られることなく廃棄されています。着用されたものでも、7〜10回の使用後には廃棄され、毎年9200万トンもの衣類が廃棄物として埋立地に送られています。この状況はさらに悪化すると予想されています。Textile Exchangeの報告によると、ポリエステルの消費量だけでも、2022年の6300万トンから2023年には7100万トンに増加しています。ファッション業界は、世界の温室効果ガス排出量の約10%を占めていますが、2018年に策定された「ファッション憲章」では、2050年までに排出量を実質ゼロにするための道筋を示すものですが、排出量は依然として高水準を保っています。
過剰消費とそれに伴う気候変動などの環境への影響に害を与えているのは、ファッション業界だけではありません。そのため、各国政府は、日常的に購入する製品の環境への影響を軽減するための規制を策定し、持続可能な設計、循環型経済、拡張生産者責任の改善を推進しているのは当然のことです。EUの「持続可能な製品のエコデザイン規制(ESPR)」の草案に盛り込まれたデジタル製品パスポート(DPP)のような規制は、消費者に対して、製品の耐用年数、修理の可能性、廃棄方法のような製品の生産が環境に与える影響について、より深い洞察力を与え、よりよいもの、そしてより持続可能な購入が可能にするでしょう。製品が本来備えている耐久性や修理の可能性を考慮し、製品をより長く使用することによって、消費者はより良い製品を購入し、購入する製品を減らすことができます。
革は、この目標を達成するための理想的な素材です。革は食肉の生産とともに必ずでてくる副産物から、汎用性が高く、耐久性がある素材を製造することができます。そして、長持ちし修理可能な革製品を生み出し、循環性にも大きな可能性を秘めています。革製品の所有者は革製品を大切に扱い、修理をし、次の所有者に受け継ぐことも可能です。長寿命の革製品は、ファッション業界やその他の分野での気候への影響を減らすために、間違いなく有効な手段となりえます。実際、衣類の着用回数を50%増やすことによって、天然繊維が気候変動に及ぼす影響については、新たな合成繊維の衣類を製造する際に排出される温室効果ガスを回避することができることから、マイナスに転じることが研究によって明らかになっています。
しかし、革は、ブランドや消費者の信頼を損なうような一部の団体による根拠のない主張や、善意ではあるが誤解を伴う規制の影響によって多くの課題に直面しています。たとえば、革が森林破壊を引き起こす原因であるという証拠はないにも関わらず、EUの「森林破壊規制」(EUDR)の附属書1に派生製品の一つとして含まれています。School of Advanced Studies Sant’Annaによる分析では、皮革の需要が飼育・と畜される牛の頭数に直接的な影響を与えることはなく、森林破壊を促進することもないことが示されています。さらに、この研究では、EUDRが皮革業界に与える影響は壊滅的なもので、森林破壊の削減には何ら貢献しない可能性があることも指摘されています。しかし、この結果、何百万枚もの皮が埋立地に廃棄され腐敗し、温室効果ガスが排出されることにもなりかねません。
同時に、消費者に製品の寿命に関する理解を深めることは歓迎されるべきですが、それを測定する手段は根拠に基づき、現実的であることが不可欠です。EUの「衣類及び履物の製品環境カテゴリー規則」案に盛り込まれた原稿の草案は、EPSRに基づくDPPの基礎となる可能性があるものの、現実的ではなく、革製品の実際の寿命をまったく反映していません。もし消費者に革の真の価値を伝えられない場合には、安価で寿命の短い合成製品を選ぶことになり、化石燃料の消費と廃棄物の増加につながることでしょう。
COP29の議長国が提案した行動枠組みに、「包括的な成果のための包括的なプロセスに」を求める呼びかけが含まれていることに留意します。私たちはこの呼びかけを全面的に支持します。皮革業界は、持続可能性と循環性のさらなる向上を目指して常に努力を続けています。しかし、規制当局やブランドが天然素材としての革の真の影響や利点を適切に評価しなければ、私たちの取り組みは損なわれてしまいます。私たちは、人為的な気候変動に立ち向かうために必要な政策と規制の策定において、皮革業界の声を聞いていただけることを謹んで要請します。
したがって、署名した私たち組織は、COPに対して、次の事項を承認するよう要請します:
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- 革の循環的で気候効率の高い特性及び消費材の気候への影響を低減するために革が持つ明らかな貢献の可能性を認識すること。特に、森林破壊の要因となる革の役割、及び素材や製品の寿命や消費への影響に関する信頼性の高い評価基準の開発について、全面的かつ適切な影響評価を行うこと。
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- 耐用年数経過後の特性や使用・代替による影響を含め、すべての素材の環境影響を正確に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)手法を支持すること。
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- 消費の削減、循環性の向上、廃棄物の削減を目指す取り組みに沿って、「スローファッション」や耐久性のある製品、何度でも使用でき、修理や改修が可能な長期間使用できる製品の普及を促進すること。
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- 可能な限り、革のような天然繊維の使用を奨励し、化石燃料ベースの素材への不必要な依存を減らすこと。